かつ吉各店の店内に飾られている書や骨董、歴史、かつての仲間をご紹介していきます。
千年残るか?新丸ビル店の天井照明とかつ切り包丁[前編・天井照明]
かつ吉新丸ビル店の天井照明(電灯の笠)は、鍛冶職人の白鷹幸伯(しらたか ゆきのり)さんが制作を手がけられた、世界にここしかない作品です。
白鷹幸伯さんは、奈良・薬師寺 西塔、平安京 大極殿をはじめ、数々の日本の国宝や重要文化財の修復・復元で用いられる和釘(わくぎ)の錬造を一手に引き受ける、現代の名工です。
白鷹さんとかつ吉とのご縁はとても古く、日本橋三越向かいで営業していた日本橋かつ吉(かつ吉の第一号店)に、「3日と空けずに」通ってくださっていた常連のお客様でした。
今もかつ吉各店で使用しているとんかつ専用の庖丁、『かつ切り包丁』の開発でもお世話になった、かつ吉の歴史を語る上で欠かすことのできない方です。
鉄の荒々しさと障子の柔らかさのコントラスト
白鷹さんには、かつ吉新丸ビル店を出店する際、入り口付近の壁に打ち込む釘の装飾などと共に、天井部分の電灯の笠の制作をお願いしました。電気の笠については、工期の関係で制作期間を十分に取れなかったこともあり、「ダメでもともと」というつもりでお願いしたのですが、それでも快く引き受けてくださいました。
以下は、この笠を制作していただいた当時のことを振り返って語ってくださった、白鷹さんのお話です。
白鷹さん:次郎(現かつ吉主人の吉田次郎)さんから「こんなものができないか?」というラフスケッチが来てね。細かいところは全部こちら任せてもろうた。
枠に使う鉄材は、ただ単に出来合いのアングル材とかフラットバーとか、角材を当てたんでは、ツルッとした弱いものしかできない。だから鉄材をハンマーでたたいて、表面にでこぼこの槌跡を作った。でこぼこした光の反射で、力強さを表現できるわけ。中世の牢獄の格子みたいな、荒々しいものにしたかった。
それで、さらにその鉄板をわざわざ繋いで、リベットで留めて、ゴテゴテさせてね。手間がかかるけど、それが効果的で、実際みんな見てくれる。わざわざ繋いでるところがまたいいわけ。
それはね、次郎さんがインドで買って帰ったツギハギだらけの鉄鍋がヒントなんだよ。その鍋がなぜそうして作られたのかは分からないけど、一枚の鉄板を曲げ伸ばしたのでなくて、何枚もの鉄板を繋ぎ合わせて作ってある鍋。それをワシが昔見せてもらって、覚えてたんだ。(※この鉄鍋は、今もかつ吉で、冬のお鍋のメニューをお出しするときに使っています。)
「この(インドの)鍋みたいに」と次郎さんに言われたわけじゃなかったけど、次郎さんが「ツギハギにしてくれ」というのは、たぶんあの(インドの)鉄鍋のイメージなんだろうと、わかったから。
とにかく叩いた鉄の凄味を出さないかんのよ。叩いた鉄くらい表現力のあるものはない。中の障子の柔和な柔らかさと、鉄のイガイガした強さというかね、そのコントラストが出てるわけ。それは次郎さんの性格なんだよ。外の鉄が荒々しいから、中の障子が引き立つんだよ。
ビルの建設業者には「そんな鉄の笠を吊るすなんて、今どき流行らない」なんて言われたそうだけど、かつ吉の古材を使った重厚な店造りに、天井がダウンライトでは釣り合わない。だから、次郎さんが反対にあっても「この鉄の笠をやりたい」と言うのを聞いた時には、「やるなぁ」思うた。
この仕事は楽しかったよ。だけどその代わり、本当にしんどかった(笑)。納期がキツうて、夜中の2時までフラフラしながらやった。もうかつ吉以外で、こういうものを作る意思はない。
だから、すごく愛着があるよ。江戸へ出てくると、この笠の下に座ることになる。だから、かつ吉の新丸ビル店は、ワシの東京の営業所なの(笑)。仕事があろうがなかろうがみんなを呼んで、席に座らせて、「上を見んかい」ゆうてね(笑)。「これが分からんじゃあ、まだまだじゃ!」って(笑)。